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本間拓巳税理士事務所

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IBM、4000億円申告漏れ

IBM坊やの眼の前においしそうなお菓子がおいてあった。
たべていいのかな、て周りに聞くと、いいんじゃない?ってみんな言う。
しばらく待っていたけど誰も来ないので、たべてみた。おいしかった。

すると突然、影で一部始終を見ていた国税のガキ大将が、「オレのおやつを食べたな!」とやってきて、ぶん殴られた。
IBM坊やは「だってみんな食べていいっていったもん。見てたなら、食べる前にダメだと言えばいいじゃないか。」

今回のIBMの件は、そんな感じのお話ではないでしょうか。
どっちが悪い?

日本IBMグループ、4000億円申告漏れ 国税指摘

日本IBMグループが東京国税局の税務調査を受け、2008年12月期までの5年間で計4千億円超の申告漏れを指摘されていたことが18日、分かった。判明している国内の申告漏れ額としては過去最大とみられる。追徴税額は300億円を超えるもようだ。IBM側は処分を不服として国税不服審判所に審査請求する方針だ。

 関係者によると、日本IBMの親会社アイ・ビー・エム・エイ・ピー・ホールディングス(東京・中央)は02年、米IBMから資金提供を受け、米IBMが持つ日本IBM株(非上場株)を購入。その後、取得株の一部を日本IBMに複数回にわたり売却したという。

 これらの取引でエイ・ピー社は多額の売却損を出し、08年12月期までの5年間で4千億円超の赤字を計上。エイ・ピー社や日本IBMなどの企業グループは08年から連結納税制度を導入し、この年は日本IBMの黒字がエイ・ピー社の赤字と相殺されたという。

 国税局は、エイ・ピー社の株取引は通常の経済取引としての合理性がなく、連結納税制度と組み合わせて納税負担を軽減し、法を乱用したと判断。4千億円を超えるエイ・ピー社の赤字は認められないと指摘した。連結納税制度で赤字と相殺された08年12月期の日本IBMの法人所得1千億円超に対し、300億円超を追徴課税したもようだ。

 日本IBMは「すべての手続きで日本の関連法規を順守している。更正通知に対して審査請求を申し立てる意向」としている。

(日本経済新聞 平成22年3月18日夕刊に掲載)

短い記事から全容を把握するのは不可能ですが、"性善説"で勝手に推測してみます。

「日本IBMの親会社アイ・ビー・エム・エイ・ピー・ホールディングス(東京・中央)は02年、米IBMから資金提供を受け、米IBMが持つ日本IBM株(非上場株)を購入。その後、取得株の一部を日本IBMに複数回にわたり売却した」

AP社がホールディング会社だとすると、主な収益は株の配当ぐらいですよね。
では買収資金をどう調達するか。(ネット情報によると、買収資金は約2兆円だそうです!)
米IBM社から提供を受けたとありますが、全て株主資本で行うのは現実的ではないし、借入なら利息負担が莫大な上、親会社が外国籍なら過小資本税制の縛りを受けます。だから資金を他から調達しなければなりません。

そこで、子会社であるIBMに購入した株式を売却して調達します。100%親子関係の場合、子会社に自己株を売却しても100%の関係を維持できます。(2兆円の資金調達は容易ではありません。ネット情報によれば、自己株式の譲渡額は5000億円だそうですが、それでも日本IBMにすれば、精一杯だったのではないでしょうか。この5000億円は、日本IBMの年間経常利益約1000億円の5年分であろうと想像します。)

他のニュースでは「連結納税制度を悪用」と書く記事もあるようですが、ここまでは将来の連結納税制度を見越したスキームというよりは、ただのLBO(レバレッジドバイアウト:被買収会社の持つ資金で支払う買収)だったのではないでしょうか。AP社のことはよく知りませんが、米IBMに支払うお金を、子会社となった日本IBM社から回収しただけのことなのではないでしょうか。
(連結納税制度の不備を見越したスキームだったとしたらすごいですね。連結納税制度が始まったのはまさに平成14年、きっと法解釈もまだ固まっていなかったでしょうから。)
現在、親子会社の間に法人を挟むなら、株式交換や株式移転を行うのが主流ですが、新会社法ができたのは平成18年だから、当時はこのような手法を使わざるを得なかったのではないでしょうか。しかも、外国法人との組織再編は、今でも税制適格ではないはずです。


「これらの取引でエイ・ピー社は多額の売却損を出し、08年12月期までの5年間で4千億円超の赤字を計上」

ここで、たとえ買った値段と同じ値段で売っても、損が出せる、というのが、まずひとつめのおいしいお菓子。
儲かっている会社への自己株式の譲渡は、みなし配当と譲渡損失が両方出て、配当は益金不算入です。

ただ、通常、そもそも益金不算入である配当しか利益の源泉がない持株会社なら、赤字を作ってもそれを活用できる見込がありません。
(これだけではおいしくない。とすると、AP社にとってこれはお菓子というよりも、お菓子の材料だったのかもしれません。)

そこで、連結納税制度の「抜け穴」を利用したのでしょうか。

「エイ・ピー社や日本IBMなどの企業グループは08年から連結納税制度を導入し、この年は日本IBMの黒字がエイ・ピー社の赤字と相殺された」

連結親子間の資産の譲渡損益は、連結外に譲渡するまではなかったものとされるのですが、自己株式の取引は、その対象になっていなかったというのが、ふたつめのおいしいお菓子。

連結納税制度では、資産の含み損益が連結相殺されることを防ぐために、5年以内に買収した子会社を連結対象にする場合は子会社を評価替えしなければならないので、AP社は、5年を待ってから連結対象にしたのだと思います。それまで5年間、法律が改正されないことを祈っていたに違いありません。


仮装行為があったなら問題外ですが、そうでなければ、国税はどのような理由で「"法が予定していた"抜け穴」を否定するのでしょうか。

しかも。このスキームにはまだおいしいお菓子が残っています。
これは連結納税制度の特徴なのですが、連結納税制度を採用すると、親会社が持つ子会社株式の(税務上の)帳簿価額が、子会社の利益分だけ上乗せされるのです。これでAP社は、日本IBM株をいつ売却しても、譲渡益はほとんど出ない。たとえ日本IBM社が毎年利益を1000億円出していても。


法律的には「国の負け」が予想されそうですが。
しかし、実はそうも言えない事情があります。たぶん国も、負けを覚悟しながらも、それでも一縷の望みをかけて最高裁までいくかもしれません。

それは、国益の問題です。
このスキームを許してしまうと、これまでの日本IBMという日本の会社の日本の利益が、無税で海外に流出してしまうからです。

裁判は、いつもは法律を慎重に吟味して公正な立場で判断していると思うのですが、いざ国益問題となると、「このようなことを許せば国益を損なう」という鶴の一声でスキームを否定することがありうるのが裁判です。伝家の宝刀、同族会社(又は連結会社)の行為計算否認です。
(それでも、当初の買収から連結までを一連の予定されたスキームだということを証明しないと、否認は無理ではないかと思います。)


米IBMは日本IBMの利益を還元したかっただけなのでしょうか。
配当でもらうと当時は10%(2兆円なら2000億円!)の源泉税がとられてしまう(現在の日米租税条約では免税)。そこで、源泉税のかからない「譲渡」という形にしたかったのかも。
しかし、米国ではその譲渡益に課税されているはずなので、IBMグループ全体としては、税率の差こそあれ、それほど儲けているという印象はありません。(米国の税制は知らないので何とも言えませんが)

ただ、"日本では"課税できなかったというだけで。

そうすると、これも、移転価格問題と根は同じ、国と国との税のぶんどり合戦です。
それとも、もっとほかに大きな租税回避が隠れているのでしょうか...


ちなみに、今回のIBMスキーム、平成22年度税制改正によってできなくなります。

3月22日追記。
この問題は、米国の組織再編税制を勉強しないと真相が見えないかもしれません。米IBM社から見れば、子会社同士の組織再編行為なので、米国法人税法ではこの時点では課税が生じていないのかもしれない。
もしそうなら、国際的な課税の繰延が行われていることになる。
(米国にとっては繰延だが、日本は、取りっぱぐれで終わる)



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